短歌近作 自撰50首


固有名詞に俗語をまぶし赤裸々に恥を恐れず歌ひゆかむか

立ち小便放屁も歌にしてしまふ島田修三にあこがれる秋

国民的ノスタルジアと思ひけり大村昆のずり落ちメガネ

ボンカレー初めて食べた日のことを忘れませんよ松山容子

サルトルとニーチェの名前教へくれし野坂昭如逝き給ふなり

人生は直線なのか円環かだれに聞くべしニーチェよハイデガーよ

ソクラテスもプラトンもアキユキもオレも みーんな悩んで大きくなつた

「墓は要らぬ散骨頼む」と逝きしとふ 元上司マツウラに墓なし

カラヤンとブラームスとにいざなわれ独逸まで飛ぶ蝦夷の末裔

啄木と賢治と遠野を肴としわが県人会の夜はふけゆく

越南と尾留満の娘の片言の日本語に逢ふ中華日髙屋

終電を降りたる街の「ヨシギュー」と「セブン」に友のやうなひとびと

こんなにも明るい世界にわれひとりただ立つてゐる週刊文春と

「スタンフォード 自分を変える教室」をこつそりと読むエロ本のごと

新宿に母ゐれば北千住には父ありてわが掌を読む

西新井竹ノ塚谷塚草加駅その並び順けふも狂はず

怖くない何も恐れずともよいと言ひ聞かせをりサザエさんの夕

メール履歴すべて読みたるAIは我が分身のごと思考する

亡き人の思考と行動解析し亡き人二号のごときロボット

粉末の遺骨と樹脂を原料に3Dプリントする故人像

遺影ならぬ「遺像」の時代到来かその人の声そつくり喋る

iPhoneにくりひろげられゆく史実YouTubeとは世界の鏡

組織など馬鹿げてゐると思はねば俺が壊れるオレガコハレル

あいつには負けてなるかと思ひ来し執着捨てて これが自由か

土に生きる職に残りの人生を託すと同僚またひとり去る

荒川の鉄橋わたるガタゴトとその音は言ふ「会社を辞めよ」

勤め人われがもつとも思惟的になるこの車両(はこ)に揺られ三十年(みそとせ)

主体性そんなものなどあるものか足が勝手に向かふのだ社へ

日本橋人形町の写真館跡にモツ焼き酒場とは嗚呼

こんなにもモツ焼きばかり繁盛し豚を何頭殺むや本日

ニッポンにオレは生まれてよかつたかたぶん死ぬまで死ねぬニッポン

「温暖化してるんだればいいことだべ」わが雪国の母は言へるも

夕つ日にもゆるすすき野われひとり過去と未来のはざまにぞ立つ

あかね濃き半透明の寒空に黒々とありカラスと電線

どしやぶりに降られしごとき失恋の記憶を持つかカラスよおまへも

思ひ出は自分のものかたそがれに頼りなきかな自己といふもの

地(つち)を蹴る利休下駄の音(ね)さんざめく阿波とくしまの盆踊りはも

阿呆連その名のごとく踊る阿呆されど涼しげに夜気を舞ふ指

情熱を迸らせて踊りたける阿波男衆に憂も鬱もなき

ヤットサー あはれ甲高い声が飛び わが脳髄を染めてゆけるも

所詮死ぬわれらなりせば手を上げて足を運んで阿呆になれと

昨日明日行き交ふいまを我は生きいつか季節のすべてにさらば

踊れをどれ世界が終はるその日にも 笛 鉦 太鼓 天地(あめつち)に鳴れ

阿波踊りパリ公演の中止とふ新聞記事を切り抜く妻は

深川の路地に迷へば門灯に誘ひこまれる蛾のごとし吾は

夕やみに浮かぶ白木蓮(はくれん)の花の数だけ思ひ出づ逝きし人の名

元日の月下の径を日枝神社へ影のばしゆく十六の娘は

月明りの農道をゆく酔へる身を追尾しやまぬ測位システム

農道の小(ち)さき水たまりのぞきみれば老いきざすわが顔と明月

お焚き上げの焔(ほのほ)に照らされゐる妻
と二十五年を共に生き来し

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